6/14/2012
始まり始めた初夏の夏
生きてきた時間を海風に流した。
どこからか聞こえてくる雨音はきっと耳に残る竹林のざわめきであろう。
天国に行くのに必要なのは小指の骨だけである。
右なのか左なのかわからないが、とりあえず僕は小指の骨だけを残し、その他の総てを燃やした。これだけ人類が進化して、文明が発達したのに未だに人間はよく燃える。時折パキパキと骨にしみこんだ記憶が折れる音がしたが、それはよく燃えた。我ながら心臓が燃え尽きたときは初恋を失ったときのような寂しさと切なさがあった。
心なんてものがなければよかった、と最後から二番目の恋人が囁いていたのを覚えている。夜を思い出させる名前だったと思うがはっきりとは思い出せない。とても頭が良くて、美しい人だった。夜、僕が眠ったのを確かめてからそっと僕の横で弱みを呟くのが癖だった。その度にまどろみの中で僕は彼女が泣いている夢を見ていた。さよならと別れたときにふと思ったのはもし彼女が僕が起きているときに弱みを零してくれたら未来は変わったのだろうか、ということだった。
それでも彼女にあったのはダレカに零したい弱みであって、支えてもらわなくては生きていけない弱さではなかったのだろう。
実際のところ心なんてものがあったのかは知らない。
許さなくてはいけない、と彼方から声がする。
我々の人生は選択の連続だと言っていた。
選んで掴んできたか、選んで捨ててきたかの違いで人の目線は分かる、と彼は言った。私は選んで捨ててきた、と言った。
生死を決めるのは魂の所在であり、彼の目線で見る世界では動いている死体というものが存在していた。魂が体ではないところにある人々が多すぎる、と嘆いていた。
もう既に死んだ男の話だ。
実際のところ、魂なんてものがあったのかは知らない。
ヘルタースケルターと地獄は関係がないということに気付くのに7年も掛かった。
7年は長い。
7年あれば何ができただろうか。
長い道のりだったと思う。
耳の奥で反響し続けている雨音のような竹林のざわめきが五月蝿い。
生きてきて良かったと思う。
目を閉じればピーコックブルーの空が広がっている。
海風にのって遥か南を目指す僕の骨灰はきっと数キロ先で海に落ちるだろう。それでもそれに気付かないふりをして遠く南へ辿りつくのだと思っていたい。僕は自らの意思で、ヘルタースケルターと地獄に何の関係もないということに7年間気付かないでいたかったのだ。
じきにここにも夏が来るだろう。
あとしばらく小指は残しておかなければならない。
そう、天国にいくためには……
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